随意随想

増加する認知症。予防には地域活動への積極的な参加を!

同志社大学教授・運動処方論 石井好二郎

 『恍惚の人』を覚えている方は多いでしょう。有吉佐和子氏の小説で、1973(昭和48)年には森繁久彌氏主演で映画化もされました。『恍惚の人』が公開された1973年の日本人の平均寿命は男性70・70歳、女性76・02歳、総人口に占める65歳以上の高齢化率も7・5%であり、認知症(当時は「痴呆」)は特別な存在でした(2004年12月に「痴呆」の呼び名が「認知症」に改まりました)。

 1985年、アルツハイマー型認知症と診断された元大学教授の家族の介護の姿を描いた『花いちもんめ』が公開されました。同作品のキャッチコピーは「ボケて悔しい花いちもんめ」「おじいちゃんが壊れていく。家族の戦争がはじまる」であり、主演の千秋実氏は68歳にして第9回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、ブルーリボン賞主演男優賞など、数々の演技賞を受賞しています(同作品は第9回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞)。1985年はわが国の高齢化率が初めて10%を超えた年でもあります(10・3%)。また、同年に九州大学が世界的な疫学研究である「久山町研究」の中で認知症の有病率調査を開始しており、当時の認知症有病率は6・7%でした。

 2012年の時点での認知症高齢者の数は全国に約462万人と推計されており、認知症有病率は15・0%です。年齢階級別に見てみますと、75〜79歳では10人に1人、80〜84歳で4〜5人に1人、85歳以上は2人に1人が認知症であると推計され、加齢に伴い認知症の有病率は増加します。また、高齢化率の高まりは認知症有病率にも関係し、2025年には高齢者の5人に1人が、2060年には3人に1人が認知症患者であるとの推定もあります。認知症と診断された人の約85%は「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」に分類されますが、特にアルツハイマー型認知症は認知症全体の約3分の2を占め大きな課題となっています。前述した「久山町研究」の1985年の調査ではアルツハイマー型認知症の有病率は1・4%でしたが、2012年には12・3%となり、アルツハイマー型認知症のみが時代とともに増加しているのです。

 アルツハイマー型認知症患者の脳には「老人斑」というシミのようなものがたくさん認められます。老人斑には「アミロイドβ(ベータ)」という物質がたまっており、このアミロイドβが増えることで脳の神経細胞が障害を受けると考えられています。「久山町研究」で糖尿病患者にアルツハイマー型認知症の発症率が高いことが明らかとなり、糖尿病がアミロイドβを増やす原因となっていることも分かってきました。したがって、糖尿病の予防はアルツハイマー型認知症の予防にも繋がります。国際アルツハイマー病協会(ADI)はアルツハイマー型認知症予防のために、「ウォーキングなどの運動」「体と脳を同時に使う運動」「魚・野菜・果物・大豆を食べる」「人とのコミュニケーション」「節酒」の5つを毎日続けることを勧めています。

 昨年末、地域活動に参加し、加えて役職も担うと認知症のリスクが低下するというわが国での研究結果が報告されました。この研究では、すべての地域活動に参加していない人は「不参加者」、役職についての質問について「いいえ」と答えた人は「一般参加者」、役職についての質問に「はい」と答えた人は「役職参加者」として、高齢者1万3850名を2003年から約10年間追跡し、認知症の発症を調査しています。また、前期高齢者(65〜74歳)と、後期高齢者(75歳以上)では、健康状態や生活行動が大きく異なるため、2003年の時点での前期高齢者と後期高齢者でそれぞれ分けて解析しています。その結果、前期高齢者では、不参加者の認知症発症リスクは一般参加者と比較して22%増え、逆に役職参加者の認知症リスクは一般参加者より19%低くなっていました。また、後期高齢者は地域活動への参加や、役職を持つことと認知症リスクの間には関連性が見られず、地域活動への参加よりも健康状態のほうが認知症と強く関連していました。ただし、この研究では、過去の経験については考慮しておらず、そのため、後期高齢者の地域活動と認知症リスクの関連性を確認できなかったのではないかとも、この研究の研究者は述べています。

 近年、空洞化しつつある地域活動において、高齢者が参加し、運営側としての役職を担って活動することが認知症予防につながることや、地域の担い手として活躍が期待される前期高齢者に対し、より積極的に地域活動に関わることの重要性を示唆した研究といえるでしょう。

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