随意随想

「健康寿命」

NPO法人JMCA理事長 羽間 鋭雄

日本人の平均寿命は毎年延び続け、平成21年度には、男79・59歳、女86・44歳となりました。また、100歳以上の人口は、44、449人に達し、このところ毎年約4000人ずつ増加しています。しかし、一方では、認知症や他の要介護者も増え続けて、わが国が抱える大きな社会問題の一つとなっています。

近年、WHO(世界保健機関)は、平均寿命のほかに、「健康寿命」という新しい指標を提唱しました。健康寿命とは、日常的に介護を必要とせず、心身ともに自立して暮らすことのできる期間のことをいい、平均寿命から介護が必要となった年数を差し引いた年数で表します。現在日本では、要介護期間が、男8年、女10年になっていますから、平均寿命世界一の中身は、決して誇れるものではありません。

確かに命あるもののすべては、発育を終えた後、年とともに多くの機能が衰退し、老化して行くことは厳然たる自然の法則です。しかし、世の中には、これは真実だとか常識だと思われてきた事柄が、実は間違いだったということがしばしばあります。人間の脳細胞の数が歳とともに少なくなるという長年信じられていた常識が近年覆されたように、われわれ人間の寿命もまた、老化による病気や、体力の減少やボケが進み、その後に命脈がつきると考えられてきた常識にはあてはまらないということが、米国の100歳以上の高齢者の最近の調査によって明らかにされました。

今まで、人間は歳をとるにつれて次第に衰えて行き、最後に死に至ると考えられていましたが、実はかなりの高齢者が無くなる直前まで健康でいて、亡くなる直前に病気に罹って死亡する人が多いということが分かったというのです。高齢になればボケが始まり、周りに迷惑をかけながら死んで行くのが当然のように考えられていますが、生き方を変えれば、かなりの人が人生の終焉まで健康を保っていられるということです。加齢とともに進んでくると考えられていたボケも、最近の調査だと85歳辺りまででボケ人口の増加は頭打ちになり、特に100歳を過ぎるとボケる人は亡くなる直前までほとんどいないことが分かりました。

我が国には「老い支度」という言葉があります。高齢になって家族に迷惑をかけないように、身辺を整理しておこうという意味の言葉だと思われます。87歳で他界した私の母も、生前十分元気だったときから、家族に迷惑をかけたくないから、元気なうちに早くお迎えが来て欲しいと折に触れ口にしていました。v

しかし、この調査の結果は、100歳にもなれば自立が出来ないのが当然だと思われている常識を覆すものであったと述べています。

フロイドと並び、臨床心理学者の双璧であるユングは、潜在意識の奥に人類共通の意識があると述べています。スポーツの世界で長年破られることのなかった記録や人類の限界といわれた記録であっても、誰か一人がその壁を破ると、その後短期間に次々と新記録が生まれるという事実は、この説を裏付けるものかも知れません。誰もできないものだと心の中に無意識にできていた壁が取り払われたとき、それまでの不可能が可能になるということなのです。

100歳以上が6万人という米国においては、その中の約15%の人が、一人暮らしでボケずに長生きをしていることが知られています。単に歳を取ればボケてくるというのではなく、生き方によっては、健康に100歳を迎えることができるのだというこの事実を知ることによって、自分も元気に長生きできて当然だという強い気持を持ち続けることが、健康に長生きさせる最大のカギだということなのです。

来年古希を迎えようとしている私は、常日頃からずーっと、100歳の自分が、スキー場で華麗にスロープを滑り降りる姿や美しいゴルフ場でゴルフを楽しむ姿をイメージし続けています。私が、100歳でスキーやゴルフをしたいという目標や夢を持つことができるのは、事実100歳でアルプスの広大なゲレンデをすべる三浦敬三氏や、94歳で3回目のエージシュートを達成し、100歳で記念ゴルフコンペを開いた塩谷信夫氏の姿がビデオや写真を通して強く脳裏に焼き付き、また、その著書を通して両氏の生き方に触れているからに他なりません。私にとって、自分にも可能性があるという夢と希望を抱かせてくれるものは、そのことを実現させた人がいるという事実以外にはありません。両氏に共通していることは、健康に気を配ることは当然のこととして、両氏とも、亡くなる直前まで、どうすれば上手く滑れるか? どうすればボールを遠くへ飛ばせるか? などと、スキーやゴルフが少しでも上手くなるために真剣に練習に取り組んでいたということです。

あなたも、まず何か目標を持ちませんか! 目標を達成しようとすれば、必然的に健康に気を配る生活になり、活き活きとした毎日が送れて、あなたも元気な100歳になれるかも知れません。

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