随意随想

「高齢者虐待を防止するために」

大阪市福祉局生活福祉部 相談支援担当課長  山本 博章

平成18年4月に「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」が施行され、7年が経過しようとしています。

大阪市では区保健福祉センターと地域包括支援センターを高齢者虐待の相談・通報窓口と位置づけ、高齢者虐待への迅速かつ適切な対応と養護者支援に取組んでいます。地域包括支援センターは、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らしていけるよう、介護・福祉・保健・医療などの適切なサービスが切れ目なく提供できるよう支援する役割を担っており、現在、大阪市内には65か所設置されています。

大阪市における高齢者虐待の相談・通報件数と、その内で虐待と判断した件数の推移は表―1のとおり増加を続けています。

相談・通報件数や虐待と判断した件数が増加を続けていることは、虐待が増えているとも考えられますが、関係者や市民の皆さんの虐待防止意識が高まり、今まで通報されなかったものが通報されるようになって、より多くの高齢者が救済されるようになったという側面もあると考えています。

【高齢者虐待とは】

広い意味で高齢者虐待とは、「高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や生命、生活が損なわれる状態に置かれること」と捉えていますが、法律では「身体的虐待」

「介護・世話の放棄・放任」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つの類型に分けており、虐待に該当する具体的な行為は表―2のとおりです。

高齢者虐待は介護疲れ、家族の長年の人間関係、経済状況など様々な要因が複雑にからみあって発生します。

複数の種類の虐待が同時に起こっていることもあります。例えば、高齢者の年金で生活している息子が、高齢者に必要な医療や介護サービスを受けさせず(ネグレクト)、医療費や介護費を自分の酒代や遊興費に充てている(経済的虐待)というようなケースが時々あります。

また、虐待を受けた人の約7割に認知症の症状が見られます。認知症になった現実を家族が受け入れられなかったり、対応方法が分からず虐待につながることがあります。

【虐待かもしれないと思ったら…】

一般的に高齢者虐待は外からは見えにくいところで起こるため、家族や養護者が地域で孤立したまま、重篤な事態に陥ることがあります。対応が遅れないように、この法律では届出制度とともに通報制度を取り入れています。

法律の第7条では、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、「その高齢者の生命、身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに市町村に通報しなければならない。」と通報義務を、「それ以外の場合、通報するように努めなければならない。」と努力義務を定めています。

「隣の家から怒鳴り声が聞こえる。虐待かもしれないけど、もし間違っていたらご近所で気まずいので通報はやめておこう。」とか「怒鳴っている家族も介護でとても苦労している。通報したら可哀そう。」とか思っているうちに、だんだんエスカレートして重大な結果を招くかもしれません。

虐待対応では、法律の名称にも示されているように、虐待している養護者を支援することで虐待を防止します。処罰したり、責任追及したりすることはありません。介護保険サービスの量を増やしたり内容を見直したり、状況によっては老人ホーム入所していただいたりして、養護者の介護疲れやストレスを軽減し、高齢者も安心安全な生活が得られることになります。

虐待かもしれないと思われる時点で通報をお願いします。通報を受けて事実確認を行った結果、虐待ではなかった場合もあります。(平成23年度は通報件数720件のうち虐待と判断したのは430件で290件は虐待ではありませんでした。)

虐待は虐待している人もされている人も自覚がない場合があります。また、虐待を受けている人の中には、養護者をかばおうとしたり、虐待されていることを知られたら恥ずかしいという思いから、虐待の事実を訴えない場合もあります。しかし、客観的に高齢者の権利利益が侵害されている場合は、虐待の疑いがあると思って対応することが必要です。

虐待かもしれないと思ったり、地域で気にかかる方がおられたら、まずは区保健福祉センターもしくは地域包括支援センターへご相談ください。また、土日祝日(24時間)や平日夜間(17時〜翌9時)は「休日夜間福祉電話相談」(電話4392―8181)で、高齢者のさまざまな電話相談に応じています。

【高齢者虐待を防止するために】

虐待を未然に防止し、早期に発見し、早期に対応するには、行政や関係機関だけではなく、地域の人々が協力し地域ぐるみで高齢者や介護する家族を見守り支援していくことが大切です。高齢者が住みなれた地域で安心して暮らし続けられるよう、今後とも皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

※施設等(介護保険施設、事業所等)における高齢者虐待の通報窓口は、福祉局介護保険課指定・指導グループ(電話06―6241―6310)です。

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