随意随想

「運動不足病」

NPO法人JMCA理事長 羽間 鋭雄

近年、文明の進化による生活様式の変化に伴ってそれまでには見られなかったさまざまな疾患が生まれてきましたが、中でも、特に運動不足が大きく影響する疾患は、総じて「運動不足病」(ハイポキネティック ディジーズ Hypokinetick Disease)と呼ばれています。

その象徴的な疾患の一つである肥満や肥満を原因とする心臓病(虚血性心疾患)が著しく増加した米国では、積極的にその対策に取り組み、その改善と予防策として生まれたエアロビクスはわが国にも紹介され、かつてエアロビックダンスが一大ブームとなり、またランニング愛好家がどんどん増えて、今や、市民参加型のマラソン大会は健康づくりを超えて市民のお祭りへと発展し、わが国の代表的な大イベントとして全国各地で開催されるようになりました。

しかし、一方、ランニングなどで健康維持に努める人々は全体のごく一部にしか過ぎず、わが国においても肥満と肥満を原因とする疾患の著しい増加のため、メタボ(Metabolic syndrome 代謝症候群:内臓脂肪型肥満に高血糖、高血圧、脂質異常症のうち2つ以上合併した状態)の改善と予防対策として多額の予算を計上して、国を挙げて取り組んでいることは周知の通りです。

さらにそれに加えて、最近は、「ロコモ」や「サルコペニア」が現代人の重要な健康上の課題として取り上げられるようになりました。

「ロコモ」(ロコモティブシンドロームLocomotive syndrome 運動器症候群)とは、「運動器障害による要介護状態や要介護のリスクの高い状態」のことをいいます。

また、「サルコペニア」とは、ギリシャ語の「肉・筋肉」を表す「サルコ sarco」と「減少・消失」を表す「ペニア penia」から生まれたことばで、「筋肉量の減少に伴う筋力や身体機能の低下した状態」のことをいいます。

これら、メタボもロコモもサルコペニアも、それらの疾患のすべてに共通した特徴は、いずれも運動不足が大きく関わっているということです。

女性は86歳を超え、男性もあと少しで80歳に届こうとする世界に冠たる平均寿命を誇るわが国ですが、その中身を見ると、介護を必要とせず自立して生きることができる寿命を表す「健康寿命」と「平均寿命」の差が、女性は13年、男性は10年もあるといわれています。すなわち、死に至るまでの10年以上もの長期間を介護に頼らざるを得ないということなのです。もちろん、介護を受けながらも楽しく幸せな日々を過ごしている方も、介護をする周囲の人々に喜びや生きがいを与えている人もおられるに違いないと思いますし、介護を受けることの是非を論じるべきだとは決して思いませんが、誰しも、やはりできうれば、最後まで自立したまま生き続けたいと願うだろうと思います。

介護なしに自立した生活ができるための最低の条件は、まず「動ける」ということです。もっと具体的にいえば、「自分の体(体重)を動かす筋力がある」ということなのです。

世界に類を見ない猛烈な早さで高齢者が増加し、既に高齢化社会に突入しているわが国の健康問題を考えるとき、そして、健康寿命と平均寿命の差をできるだけ少なくして、名実ともに誇れる長寿国になるためには、まさにこの、ロコモとサルコペニアの対策こそが重要な課題であると思います。

しかし、自立するための筋力をつけるためには、決して、辛いことや難しいことをする必要は一切ありません。むしろ、辛いことは無理してしないほうが良いのです。高齢になって無理をすると体が壊れます。

動ける体を維持するためには、できるだけ文明の利器に頼らない生活を心がけて、「立つ」「座る」「横たわる」「起きる」「立ち上がる」「歩く」といった日常生活における動きの基本動作を毎日自力でやり続けること、そのことこそが大切なのです。中でも「歩く」ことはもっとも大切な運動ですが、特に坂道と階段は最高のトレーニングの場だと心得て、避けることなく積極的に歩くことをお勧めします。普通は何事も「効率よくすること」は良いことですが、健康体力を維持するためには、効率よく体を使うのではなく、遠回りをして目的地に到達するなど、むしろ余分に体力を使うことを心がけることが大切です。

日本整形外科学会が定めるロコモの自己診断7項目を下に記しますが、「1つでも当てはまればロコモの危険性がある」とされていますので、1つでも該当する人は、直ぐ今日から、積極的に動く時間を増やすようにしてください。

 

「ロコモ自己診断」
1、家の中でつまずいたり滑ったりする
2、階段を上がるのに手すりが必要
3、15分くらい続けて歩けない
4、横断歩道を青信号で渡りきれない
5、片足立ちで靴下がはけない
6、約2sの買い物を持ち帰るのが困難
7、布団の上げ下ろしなど家のやや重い仕事が困難

 

生きるために運動がどれほど大切なことであるかを、今一度本当に気付き認識していただきたいと心から願います。

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