随意随想

「現在の「国民の司法参加」の具体的姿」

桐畑・鈴木法律事務所 弁護士 桐畑 芳則

一.司法とは、国が裁判所によって既定の法律等の法令を特定の事実に適用して、その適法性・違法性あるいは権利関係を審判する作用のことを言います。この司法作用に専門的に携わる人達が法曹三者といわれる裁判官、検察官、弁護士です。ですが、現在、法曹三者以外に、民間の一般の人々がさまざまな形で司法作用に参加し司法に寄与・貢献をしているのです。具体的には、家庭裁判所が行う家事調停事件に携わる家事調停委員と参与員、主として簡易裁判所が行う民事調停事件に携わる民事調停委員、簡易裁判所が行う民事訴訟事件に携わる司法委員、そして地方裁判所が行う刑事事件のうち裁判員裁判に携わる裁判員が正にそうです。このような種々の形で民間人たる一般市民が司法作用に参画して国民の利益に寄与・貢献している現象を捉えて、「国民の司法参加」と言っています。右の国民の司法参加の、その具体的姿と特徴について概観を見てみたいと思います。

二(一)家事調停委員は、家庭裁判所が行う家事調停事件について裁判官と共に調停委員会を組織して調停の場で当事者の話を聴き意見を述べ適切なアドバイスを与えるなどして適切、妥当な解決としての調停の成立を図ることを職務とします。家事調停委員として最高裁判所より任命された人達には弁護士等の専門家もいますが、圧倒的に多くの家事調停委員は非専門家である民間人から任命された人達です。非専門家であっても社会生活上の知識経験が豊富で人格識見の高い人の中から任命されます。家事調停委員に任命された民間の人達の経歴や職業もさまざまです。例えば、元教員、元会社員、元公務員、現役の方々としては、自営業、宗教家、主婦等々です。家事調停委員は原則として男女のペアがある一つの家事事件を担当し、両当事者の合意形成を目指してあっせんの努力を重ねます。調停の場で大切なことは、家事調停委員は主役ではなく当事者が主体的に紛争の問題点を理解して適切妥当な解決方法を見い出せるよう援助、手助けをする役割であること、従って調停委員会が強権的に調停案を作って当事者に押し付ける調停であってはいけないことです。

(二)参与員は、家庭裁判所が離婚訴訟等の人事訴訟や家事審判(調停が不成立となった案件を審理する事件と申立てがあると、そのまま審理をする事件とがあります)を行う際、その手続に立ち会って意見を述べることを職務とします。参与員に就任する人々ですが、民間人たる元家事調停委員や現役家事調停委員が多いです。参与員は市民の目線で審判における審理に貢献するという役割を担っています。

以上、見たように、家庭裁判所の家事事件には一般市民の人々が多数参画して大きな役割を果たしています。

(三)民事調停委員は、主として簡易裁判所が行う民事調停事件について裁判官と二人の民事調停委員が調停委員会を構成して調停の場で当事者の主張を聴き問題点の整理等をし適切なアドバイスをして適正、妥当な円満解決としての調停成立を図ることを職務とします。裁判所は弁護士等の専門職の人も任命しますが、やはり多くは民間人の一般市民の方が任命されています。その担当する調停事件は幅広く現在8種類あります。民事一般・商事の調停事件、農事調停、公害等調停、鉱害調停、宅地建物調停、交通調停、サラ金等の多重債務に苦しむ人達のための特定調停がそうです。民事調停委員は中立公平な立場で両者の言い分を整理して双方の歩み寄りを説得すると共に法的にも適正妥当な解決(合意)を形成すべく、あっせんを行うのです。

(四)司法委員は、簡易裁判所にて裁判官が訴訟事件の審理をするに際し、その立会いをして裁判所が行う和解の補助をしたり、事件について意見を述べたり証人等に発問したり等の職務を担います。司法委員は民間の有用な人材を活用して(ただ、実際上は、不動産鑑定士、司法書士、公認会計士、建築士、弁護士等専門的知識を有する人々が多く選ばれているようです)、司法作用に司法委員の豊かな知識経験や健全な一般良識と感覚を反映させる役割が期待されています。

(五)裁判員は、地方裁判所の刑事事件のうち裁判員裁判対象事件につき他の五人の裁判員と三人の職業裁判官と共に審理に臨んで有罪か無罪か、有罪の場合どのような刑にするか(量刑問題)を判断する役割を担います。この裁判員制度は国民が刑事裁判という重要な司法作用に直接参加して国民の健全な良識と多様な視点や感覚を反映させることを目的として平成二一年五月から施行されている画期的な制度です。それだけに、スタートしてからまだ五年足らずですので、今後は、この裁判員制度を遂次改善していき、より一層充実・発展させていく必要があるでしょう。

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