随意随想

「自転車が加害車両である場合の交通事故」について

桐畑 芳則 大阪弁護士会会員 弁護士

一 道路交通法上の自転車の取り扱い

 自転車は道路交通法(以下、「道交法」といいます)上軽車両にあたり、車両としての規制を受けます。ただし、道交法は自転車(普通自転車及び道交法施行規則に定める基準を満たした電動アシスト自転車)の交通方法について幾つかの特例を設けています。また、自転車は自動車や原動機付自転車とは異なる規制を受ける場合もあります。

二 自転車の交通方法の特例

 先ず、自転車は原則的には「車道」を走向しなければならず、それも道路の左側部分を通行しなければならず、車線が引いてある「車両通行帯」の道路では左側端に寄って通行しなければなりません。従って、原則、自転車は車道と歩道の区別がある道路では歩道を通行してはいけません。

 しかしながら道交法は例外的に自転車が「歩道」を通行できる場合を認めています。と言うのは、そうしないと現実の交通実態に合わないことが多いからです。自転車が歩道を通行できる例外的な場合というのは、具体的には(1)自転車運転者が児童・幼児・七〇歳以上の高齢者・身体障害者等である場合、(2)車道や交通状況から車道を通行するのは危険である場合、(3)道路標識等により歩道を通行できるとされている場合です。そして、歩道を通行してよい場合は、道路の右側、左側のどちらの歩道でも通行できます。

 ただし、歩道通行には自転車運転者は、次の義務を守らなければなりません。

(一)歩道の中央から車道寄りの部分を通行すること、(二)「徐行」、即ち、時速8キロメートル以下の速度で通行すること、(三)歩行者がいる歩道で歩行者の通行を妨げることとなるときは「一時停止」をすること、です。

 次に、自転車等の軽車両に特有の規則としては、路側帯(歩道が設けられていない道路において白実線一本を表示して設けられた帯状の道路部分)がある場所では、自転車は道路の左側の路側帯のみを通行することができます(ちなみに、平成二五年法改正前までは、右側の路側帯も通行できました)。

三 その他自転車を運転する際の遵守義務

 先ず、自転車の装置として制動装置及び反射器材の設置を義務づけています。また、灯火義務として前照灯・車幅灯・尾灯等を付けなければなりません。

 乗車人員の規制としては、原則として二人乗り運転は禁止です。例外として自転車に幼児用座席(一人用又は二人用)を設置していてこれに六歳未満の幼児を乗せる場合で、かつ、運転者が一六歳以上のときのみ二人乗り又は三人乗りが認められます。

 自転車運転でも道交法は酒気帯び運転を禁止しています。携帯電話を自転車に乗りながら使用するのは、都道府県の公安委員会が定めた規則で大抵は禁止しており、他の禁止違反行為と同じ様に道交法違反として罰則適用の恐れがあります。

 なお、平成二五年道交法の改正によりノーブレーキピスト(制動装置不備自転車)対策として、警察官が右自転車が運転されているときは自転車を停止させ、かつブレーキについて検査できることになりました。

四 走行中の自転車による加害事故の損害賠償責任

 自転車運転者が走行中に事故を起こして他者に人身損害を与えた場合、原則的には当該運転者は民事賠償責任を負います。この場合、被害者又はその遺族たる相続人は自動車損害賠償保障法(以下、自賠法といいます)による保険金給付の救済を受けることはできません。なぜなら加害自転車は自賠法の「自動車」に含まれず、自転車加害事故には自賠法が適用されないからです。それゆえ、自転車による人身事故の被害者又は相続人は不法行為責任を定めた民法の規定に基づいて損害賠償請求をする外ありません。

 しかし、以下述べるように右損害賠償請求をするにあたっては現実にはさまざまな被害者側に厳しい問題が立ちはだかっています。その一つに、誰が法的損害賠償義務者なのかを被害者側が調べて特定しなければならないことです。自転車は民事責任能力がない児童・少年少女も運転するからです。この場合はこれらの子供の監督義務者である親が賠償責任を負うからまだしも、悲惨なのは一般的に民事責任能力があると言われている中学生以上の生徒・学生である未成年者が自転車事故を起こして被害者らに大きな損害を与えてしまった場合です。当該未成年加害者には 現実的には賠償能力はなく、かつ、その親は原則、法的損害賠償義務がないためです。ことに、人身事故で寝たきり等の重傷を負った被害者には事実上の泣き寝入りという極めて理不尽な結果となります。

五 自転車事故と保険

 自転車による右のような重大な事故や死亡事故における高額な損害賠償の一部に報いる制度として、自転車運転者が任意保険に加入するという方法があります。その一つが最近注目されるようになった自転車保険であり、もう一つはTSマーク保険といって自転車安全整備士による点検、整備を受けた安全な普通自転車であることを示すTSマークに付帯した保険です。しかし、TSマーク保険は賠償責任保険金額の最高額が二〇〇〇万円であること、有効期間がTSマークに記載されている点検日から一年となっていることに注意する必要があります。

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