随意随想
医療費42兆円を憂う
NPO法人JMCA理事長 羽間 鋭雄
2018年度の国民医療費が、前年度より9千5百億円増えて、42兆2千億円に達しました。国家予算(97兆7千億円)の約半分ものお金が医療費に使われたのです。
でも、多くの国民は、おそらく、「我関せず」なのでしょうね?
衰えることのない我が国の医療費の高騰は、健康づくりの指導者としての私にとっては、既に喜寿を迎えた今も、とても「我関せず」ではおれず、一体どこに問題があり、誰のせいなのだと一人憤ってしまいます。
「医学が進歩しているにも拘らず、病気と病人と医療費が増え続けるこの不思議を、誰も不思議と思わない不思議な世の中」になっていることに気付き、真剣にその原因を究明して、一人ひとりが自分の健康に真剣に取り組むことが求められます。また、個人の努力だけにとどまらず、健康保険を始めとした医療に関わる制度や医療業界に対する国の対応など、様々な点で抜本的な解決策を講じない限り、途方もない医療費のために、いろんな面で、個人の生活に不利益を及ぼすだけではなく、国の存亡が危うくなるのではないかとさえ危惧されます。もちろん医療は必要不可欠ですが、医療の進歩に期待しながら、それに伴って、病気と病人が増え続ける現状が続く限り、真の健康長寿を具現することは不可能です。病気治しに力を入れるのではなく、病気にならないこと、健康になることに最大の価値を置いて、そのためにこそ知恵を結集し、個人は努力し、国は貴重な財源を使うべきです。
不健康な生活を続けながら医学検査に多大の費用を使い、その検査で異常を見つけて病名をつけてもらって、それでも生活習慣を変えることなく病名に応じた薬を延々と飲み続ける姿は、自らシャワーで水を浴びながら、その元栓を締めることをしない(生活習慣を改めない)まま、薬という火炎放射器で乾かそうとしている姿に等しく見えます。元栓を締めない限り、火炎放射(薬)を止めれば、またすぐ濡れてしまいますが、元栓を締めて(生活習慣を正して)乾かせば、二度と濡れることがない筈です。病気は、個人の責任だけを問うことはできませんが、生活習慣病といわれるものも少なくありません。個人の責任を一切問われることも、医療費の心配をすることもなく、心おきなく病気ができる?保険制度のために、心おきなく病気をする?人を増やしていることがあるのではないかと勘ぐってしまいます。
医学的検査に膨大な費用を使う前に、まず実施するべき検査は、生活習慣の点検であるべきです。
病気は、医学的検査によって作られます(?)。検査値が、定められた基準値を逸脱すれば、自動的に病名が付けられます。しばしば、医師が、患者を見ないでコンピューターの画面を見ながら診断するといわれるのは、医学が科学的(すべての事象を数値化して判断する)だからです。そして、そんな医療が発達しても発達しても、病気と病人と医療費が増え続けるというまぎれもない現実があります。
医学的検査では、決められた基準値から僅かでもはみ出せば、突然立派な?病名をつけてもらえます。そして、保険適用で安価に薬を手にすることができます。そんな、世界一といわれる健康保険(病気保険?)制度を持つ日本人はなんて幸せなのでしょうか?
いやいや、とんでもない、医療費のほんの一部でも、教育や子育てや年金やその他の福祉などに使うことができれば、もっともっと幸せな世の中になるに違いないと思ってしまいます。
診断項目の基準値は、標準的な生活をしている大多数の人の測定値の最小と最大値からそれぞれ約2・5%を除いた残りの約95%の幅と決められていますが、その基準値のもとになる日本人の生活はどのようなものでしょうか?
WHO(世界保健機構)の研究グループが調査した、世界の代表的な長寿村(主に山岳地帯の農耕民族)の共通した生活は、1、水と空気の質が良い 2、気候がやや厳しい 3、労働(運動)がややきつい 4、ストレスが少ない 5、摂取カロリーが少ない 6、美食ができない(たんぱく食品の摂取が少ない) 7、野菜の摂取量が多い 8、早寝早起き 9、規則正しい生活 10、高齢者ほど敬われる というものでした。
これらの条件と今の日本人の生活を比べてみると、1、水も空気も質が悪い 2、生まれた時からエアコンで暮らす 3、運動不足 4、ストレスが多い 5、食べ過ぎ 6、動物性食品をよく食べる 7、野菜の摂取量が少ない 8、夜更かし 9、不規則な生活 10、高齢者が疎んじられる という風に、長寿村とは、まるで真逆の生活をしているといわねばなりません。
すなわち、健康的な生活をしていない日本人の集団から産出された基準値が、健康の基準値になるとはとても言えません。
基準値の中にあるから「問題がない」と診断された貴方の検査値は、不健康な生活をしている集団の95%の中にいる一人であることを示しているに過ぎず、それが、健康であるという証拠はどこにもありません。今貴方が手にした検査値は、今のあなたの生活状態における値にすぎませんから、それが基準値の範囲内あるとしても、貴方の生活が不健康であれば、それは不健康な値だということになります。
不健康な集団の一員であることに満足するのではなく、貴方の健康は、貴方自身の心と体の声に、常に耳を傾けて判断するべきです。いつも、身も心も軽やかで快適である状態であるためにはどういう生活をすればよいかを見つけて実行することこそが、健康長寿への一番大切な心得です。