随意随想

令和時代の幕明けに寄せる願いと誓い

大阪ソーシャルワーカー協会会長 大塚 保信

 年の初めに東の空をそめるお天道様の光はなぜか昨日までとは輝きがちがう。思わず頭を垂れ柏手を打つ。幼い頃から今日に至るまで、初日の出に手を合わせる時には、神社、仏閣をお参りする多くの人と同じように「今年こそは」とあれこれと心に誓うのだが、そのとおりに実行し誓いを成就させたことは恥ずかしながら殆どない。今年ばかりは積み残した昨年の宿題を早い目に片づけなければならない。

 去りにし一年を振り返れば、昨年秋には平成天皇の退位に伴う若き令和天皇が即位される国家的行事が執り行われた。それにつれ戦前の昭和15年生まれ世代の私にとっては、昭和、平成、令和の3代にわたる時代を迎えることになった。二度とあってはならないおどろおどろしい戦争を体験し、食べ盛りの戦後は食糧難でいつもお腹をすかしていた記憶を鮮明に覚えている最後の世代である。それゆえ国家の安寧と平安に加え、何より世界の平和を心底から願うものである。

 70歳までは微力ながら教育の分野で若い世代の指導にあたらせて頂き、憲法をはじめ公法学を担当させて頂いた。その一方でご縁のあった社会福祉を専門とされていた高名な教授から高齢者福祉に取り組んではどうかとのご助言を頂いた。それ以来今日に至るまで高齢者福祉の研究と実践に微力ながら取り組まさせて頂き、大阪はもとより全国の老人クラブ活動にも参与させて頂いている。私自身もあと2年ばかりで80歳の大台に達する年代に達してきたが、昨年、四国で開催された老人クラブの講演に出かけた際に、大正生まれで今でも背筋をピンとのばし、とてもセンスのよいお洒落な洋服を召された会員さんにお目にかかることがあった。3代どころか4代にわたる日本の時代をご自身の目で見てこられ、体験されてきたのである。30分ばかり戦前・戦後の想い出話を伺うことが出来たが、時間が許せば伺いたい話は山ほどあった。来月には、瀬戸内海を渡って四国に出かける用務があるので、またお会いできればと今から楽しみにしている。何より、どうしてそんなにお元気なのか、センスの良いお召し物がよく似合うのにはどの様な気配りがあるのか、等々その秘訣を伝授して頂き少しなりともわが身に叩き込みたい。

 先に述べたように若き日の学生時代には法学を学んでいたので、令和への日本の時代変わりにあわせ、今更のように六法全書の冒頭にある「日本国憲法」の第1章「天皇」の項目を開いてみた。六法全書にはよく知られている民法や刑法をはじめ数多くの法律が書き込まれているが、憲法が国の最高法規であり憲法に反する内容の法律等は憲法違反として認められないことはご存知のとおりである。しかし憲法とて必要に応じて国民の代表で構成されている国会の審議を経て改正されることもある。ところが昭和21年11月3日に交付され6か月後の5月3日に施行された日本国憲法は今日までの72年間の長きにわたり一度も改正されていない。国によってはしばしば簡単に改正される憲法もあってこれを軟性憲法といい、その一方で、改正に相当の手続きを要する硬性憲法がある。その意味では昭和21年に成立して以来、平成、令和の今日までこれまで一条も改正されていない現在の日本国憲法は硬性憲法に位置付けられる。

 新年早々、法律論議やかたい話はこれくらいで置き老人クラブのこれからを少し考えて見たい。全国の老人クラブの中心メンバーは今や昭和世代で占められている。80歳を目前に控えた世代の私にとっても、まだ戦後の名残があちらこちらに残るなかで、貧しくとも勤勉に学び力強く働き奇跡的ともいわれた経済成長を成し遂げ、平和の祭典であるオリンピックが華々しく晴れやかに開催された昭和の時代がいまでも懐かしく思いおこされる。実は私がこの世に生を受けた戦前の昭和15年にも日本でオリンピック開催の計画があったようだが、第2次世界大戦を前にした不穏な世界状況のなかで残念ながら中止になっている。そんな時代の再来は二度とごめん被りたい。そのオリンピックがやがて平和な令和の新時代の幕開けにもう一度日本にやってくる。今やアマチュアやプロを問わず、また、これまでになかった新しい競技を含め世代を超えて多くの人々がスポーツを楽しめる時代になった。幼い頃から鉄棒の逆上がりも出来ずに、体操の課目が一番苦手だった私が最後に奉職したのは大阪体育大学であったから、体操がお得意であった小学校の恩師からいつも冷やかさられた。折しも今年は日本で2度目のオリンピックが開催される。出来れば東京にでかけ、あまり人気もなく観客の少ない競技で頑張っている選手の応援にかけつてみようかと計画している。ともあれ新年を迎えたばかりで今年一年まだまだ時間はたっぷりある。優先順位を決めてゆるりゆるりと時間をかけて楽しみながら、身にあった社会活動に継続して取り組めればと願っている。

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